その優しさは大事にしたい

それは昨日のこと、ストックホルム大学の構内で読書をしていたときのことだ

時刻は午後8時10分過ぎ頃だったか、一人のご老人が私に近づいてきたのだ

彼は突然こう尋ねた、

「君は何分くらいその席に座っているのかね?」

私:10分ほどですが。

そして彼はもう一度聞いた。

「あの障害者トイレが先ほどから施錠されているのだが、君はあそこから誰か出てくるのを見たかね?」

私:見ていませんが。

「もしかしたら、誰かが中で倒れてたりするのではないかね?」

私:そうかもしれませんが…





確かにその一人用障害者トイレは、内側から鍵がかかっていた

ノックしてみたが返事はない

「これはやばいんじゃないのかい!?」

彼はかなり心配した様子で、中で何かトラブルがあったのではと考えていた

「私は警備員を探してくる」

そう言って彼はどこかに行ってしまった

まだ学期も始まったばかりの大学、夜八時ともなれば人もいない

私は孤独にそのドアの前に立ちすくした

そしていよいよ、中で何かあったのでは、と同じ思いに駆られ始めたのである








私は意を決して、ドアを空けようとした

概してトイレのドアノブには、外側からでも鍵が開けられる溝がある

もう一度ノックして返事がないのを確認した後、ポケットに入っていた金具でドアを開けた。

ドアノブはかなり重たく感じられた。

あんなに重たいドアノブは今までになかった

そして、そこで見たものは、



























































掃除機、それは床を掃除するときに、ほうきよりも利便性を発揮する道具である

そのマシーンが世に誕生してからというもの、彼は多くのほうき職人を切り切り舞いさせた…

何人の職人たちがその無機質な機械の前に散っていったことか…

それは筆舌に尽くし難い
























私:っていうか掃除機じゃん











それも業務用




















おそらくは清掃業者が、そこらへんに掃除機をほったらかして盗まれるのを恐れ、

とにかくそこら辺に隠しておきたかったのだろう

何となく高そうな掃除機だ

しかしそれがいくら高価な代物でも、私を良い気分にはさせなかった

私:ご老人やってくれるぜ…








10分ほどすると、彼が帰ってきた

確かに警備員を連れて来ていた

彼は言った「ドアが開いてるな。中に人がいたのかね?」

私:何もありませんでした(スッキリしたように)

「えっ!?人は?」

私:掃除機しかありませんでした

「まじで!?警備員呼んじゃったよ…」

ご老人はガックリした様子で帰っていった

警備員はあきれた様子で帰っていった

きっと、彼の半分は優しさで出来ていたんだと思う

-完-