ペーパー・チェイス

大学の授業で、二度ほどこの映画をみたことがある。

"The Paper Chase(1973年アメリカ)"。

ハーバードのロースクールの新入生が、勉強と恋愛の合間でこころ揺さぶられる青春物語である。

この映画を授業で上映したのは、二回とも同じ教授である。

二度も同じ映画を見て、同じ教授の講義を聞くと、

教授の冗談にも使いまわしがあることが分かる。

しかし二度目の上映での講義には、こんな一幕があった。

主人公が先輩の寮生から身の回りのことについて、ブリーフィングを受けているときのことである。




"Where is a pool?"
(プールはどこにあるんですか。)

"It's across the squire, behide HOLYOKE CENTER. You are swimmer?"
(あそこの広場を抜けた、ホールヨークセンターの裏側だよ。きみは水泳選手か?)

"No, just relaxes."
(いえいえ、ちょっと息抜きに、ね。)




この場面での字幕を見て、教授は、

「あれは誤訳。水を泳ぐ人は、英語ではみな”swimmer”である」といった。

つまり、スイマーを「水泳選手」と字幕するのは間違えである、との指摘である。

しかし、果たして本当に間違っているのだろうか。




というのも、私はいまその映画『ペーパー・チェイス』を三度見ているのだ。

これは誤訳ではないだろう。

おそらく教授は、「水泳選手」の字幕に気をとられて、

その直後の主人公の発言に注視していなかったものと思われる。

主人公と寮生とのやり取りを見ると、この主人公は水泳選手ではない。

プールの場所を聞いているのは、主人公がストレス解消のための水泳をするからである。

寮生が、”You are swimmer?”とたずねたのは、競泳選手であるかどうかを正すものである。

(上記のせりふの抜粋に関しては、その前後のやり取りも存在するが、水泳のトピックに関して関連のあるものはなく、その箇所だけを抜き出した。)




教授がこれを誤訳と指摘したのは、

このシーンの後に、実際に主人公がプールで泳ぐ場面が挿入されるからであろう。

主人公はバタフライなどの泳ぎを披露する。

しかしプロの選手という設定ではない。

そのことが最初から頭にあった教授は、

”swimmer(直訳で、泳ぐ人)”を「水泳選手」とした字幕に引っかかるものがあったのだと思われる。

”swimmer”という、水を泳ぐ人になら誰でもつけられる呼称を、

限定した言い回しにした字幕に気に食わなかったというのが、本当のところだろう。

だが、前後のやりとりを日本語に起こすとすると、やはりこれは誤訳ではない。


















っと、また子細なことを言ってしまう。