古武士のような

なんとなく昔のことを思い出したので書く。

いつもの弓の話である。

高校生の頃、同じ地区内のK女子高校にO先生という人がいた。

いつだか顧問のN先生と立ちを組むということで十二人立ちの大道場で矢取りを頼まれていた。

O先生は十二番的の大落で、私は後ろの観客席で控えていたから何となく矢道に首を伸ばしてどんな弓を引くのだろうと伺っていた。

そしたらO先生は尋常でない強い弓を引く人で、矢が目の前を轟音を立てながら横切った。

いまだにあの恐怖は忘れられない。

為朝の矢を避けたらきっとあんな心境になったに違いない。

空気を切り裂く音よりも矢が飛んで来るグワっという迫力が先に来た。

あたったら死ぬと思い一瞬後にシュー!っという音が鼓膜に焼き付いて最後に身を引いていた。

矢道と観客席の間にはおあつらえ向きの生け垣があり、どう考えても生け垣の縁にも首はかかっていなかったのである。

もう15年くらい前の話だが、腰が抜けるというのはああいうことだ。

今思い出しても怖い。

それが初矢であり、そのときO先生は最後を抜いて4射3中であったと思う。




私が部活の主将を務めていて一度K女子高校と練習試合をしたことがあった。

そのときに一度お会いして、あとは公式戦で何度がお顔を拝見したことがあったと思う。

実際にお話した記憶はないが、今年でO先生が亡くなって8年になる。

ああいう衝撃的な人が早くに亡くなるというのは本当に天のいたずらとしか思えない。

古武士のような、為朝のような、絶対に義経ではなく、190cm近い巨躯の、

聞く人によればエロ教師だったらしい。

先人というのは本当に惜しく、ともすれば美しく描かれすぎることもあるが、

思い出というのは虚飾を越えた尊敬をいまに伝えている。

そういう人を追い越すくらいでないと一人前にはなれないのである。

何年かぶりにO先生のことを思い出し我が身のぬるさを思う。