役得

高校生のときは生徒会に所属していた。

部活動もやりながらで中々に忙しく充実した時間を過ごしたものだと思う。

一年生の秋口に生徒会の会計監査になり、そして春休みを迎え、休みの最後の日は用事があり三階の生徒会室に詰めていた。

部活をできずに悶々としているなか、下校の時刻になり部活帰りの同期らの姿が下の通りに見えた。

当時、生徒会役員は新学期のクラス割の表を一日早く貰えるという特権があった。

一枚コピーを取って、それをくしゃくしゃに丸め、クラス割りだぞー!と窓から大声で叫んで、

S君めがけて窓から投げて渡した。

S君は天から札束でも降ってきたかのごとく早足でキャッチし、

「よくやった!」という声が聞こえて、下では同期一同やんややんやの喝采である。

その盛り上がり方を見て、いい仕事をした、とその眺望に部活が出来ないウサを晴らし中々いい気分になった。

明日わかることなのだからクラス割りなど翌日まで待てばよいではないか、という向きもあるだろうが、

そこには週刊少年ジャンプを土曜や日曜日に読めるような優越感があるのだ。

子どもの時分は、その一日や二日を待つことが非常にもどかしく、

小中学校の頃など、月曜日の朝にジャンプの内容を知っている男の子は、クラスの中でも勇者か何かのような扱いだった。

高校生になり知恵も付いてくるようになると、ジャンプの早読み程度のことで騒がなくなるが、

公開前のクラス表ともなると早熟な好奇心をくすぐるようである。

ところが、どーしたものか、クラス名簿のコピーは更にコンビニの10円コピーで刷りましされて、まだ構内に残っていた部活組の間を駆け巡ったらしい。

翌日学校に来ると、くしゃくしゃになった後がクッキリと見える「コピーのコピー」をクラスの何人もが持っていたのである。

多少どきまぎしながらも知らぬ顔で澄ましていた。

しかし、翌年から生徒会の「一日前特権」は見事になくなってしまった。

やれテストの成績表が見つからないだの、クラス名簿をいれたUSBメモリーを落としたのだとか、

文書管理のミスがニュースになる昨今では、厳しく犯人探しが行われるかもしれないが、

当時は生徒会担当のM先生の「去年だれかが流出させたからあげられないわ」という不満顔だけで済んだのである。

てっきり例年のごとくクラス割りを貰えるものだと高をくくって職員室を訪ねていたものだから、

上げられないと言われ、急にそのような話になっていたので、

犯人は生徒会役員の誰かだ、というところまでM先生は辿り着いていたはずで、

内心かなりハラハラしていたが、結局、何事も言われずに職員室から解放され、ほっとしたのを覚えている。

生徒会室に戻って役員たちに、今年は貰えないそうだ、と伝えたときの皆の落胆した顔と言ったらなかった。

言わば、「役得」を一つ潰してしまったわけで、あの時ほど後輩に迷惑をかけたことも未だにないような気がする。