捨てられた本

マンションのゴミ捨て場に大袋が三つ捨ててあった。

中を見ると大量の本が中に入っていた。

推理小説、少女漫画、健康に関する本、

きっと捨てた人は女性だったのだろう。

なぜその人は古本屋に持っていかず本をゴミ捨て場に置いていったのだろうか。

勝手な想像だが、その人の気持ちはわからなくもない。

もし自分が本を捨てるとしても、二束三文の買取価格にしかならない新古書店の本棚に並び、

無機質な蛍光灯の明かりに照らされいつ売れるかもしれない環境に置かれたとしたら、

きっと本は売るより燃やすか捨てるかしたほうが気がスッとするだろう。

ゴミ収集場で燃やされるか、誰か物好きな人に拾ってもらって読まれるかするほうが、

よっぽど本にとってはありがたいことのように思う。

かつて本を100冊ほど寄贈したことがある。

引越しにともなって山梨の山奥の施設図書館か何かに、

小学館の日本美術の体系か何と、明治文学の作家の全集を送ったことがある。

それでも釈然としなかったことを覚えている。

自分の本が図書館の本棚に並んで不特定多数の読者が来るか来ないかわからない状態で、

いつまでも夕日を浴びて一日を終えることを何十年も続けると思うと、

それはゾッとすることである。

もしも本に魂のようなものが宿るとしたら、それは読者のことである。

私の魂が宿るから、本の行く末に関して気を揉むのだと思う。

本は息をせず、命も持たない。

しかしあたかもそれがあるかのように思うのは、私自身が感情移入しているからである。

マンションのゴミ捨て場に打ち捨てられた本をみて、わたしは思わずそんなことを思った。