授業
ひょんな機縁から大学で授業をすることになった。
二回だけだけどね。
近代の病理を説明するというもので、二週にわたり病人の誕生や医原病などをテーマにお送りした。
準備に何十時間とかけたんだが、いざ教壇に立つとあっさりと予定していた内容が終わってしまい、
時計を見るとまだ三〇分ほど余っている。
(まずい、給料分はちゃんと働かなければ)
背筋に冷たい汗が流れる。
授業を受けている側からすると、延々と九〇分という枠が長く感じられるが、
いざ教壇に立つと時間の感覚は著しく変わる。
平静に話しつつも、学生たちの顔色は気になる。
教壇からは色んな世界が見える。
内職(他の授業の宿題や予習)をする者、携帯をいじっている者、ぽかんと口を開けている者、
異性との小声の会話に夢中になる者、視界にはその全てが飛び込んでくる。
学究的な研究を行う一方で、先生は教育を行うことも考えなければならない。
どうにかみんなの興味を集約する話題はないものか模索していると、
結局、関心をせっつく話題は雑学や他愛のない世間話ばかりになる。
教育ってむずかしいですね。