アッティラと名前
さいきん知り合った人と友達の彼女の名前が一字違いでよく間違えて呼んでしまう。
間違ったのを悟られまいとするから、
「○ちゃん…(あっ、間違えた)、えーと、○○さん」と言い直すことが三回くらいあった。
その彼氏もさいきんできた知り合いと友達で、三人一緒にいたのだが、
またしても「ねえ、○ちゃん、ううん、げふんげふん、○○さん」とやってしまい、
後輩にもかかわらずその彼氏にけりを入れられた体たらく。
「先輩わざとやってないですか?」と言われたのだが、もうそういう年なんだよね。
だめな先輩ですまんな。
名前に関する失敗というのは意外によくあることで、その最たるものは恋人の名前を間違えることだ。
人の話を聞くと、どうも男性にこの種の失敗は多いようだ。
つまりは今カノを元カノの名前で呼んでしまうというものであるが。
何回か身に覚えがあるが、ちゃんと彼女の名前を分かっているのに、
ワンクッション置かないと彼女の名前が出てこないのだ。
特に目の前に彼女がおり、「○○ちゃん」と呼びかけるときこの傾向は顕著になる。
おそらく以前それで失敗しているから、名前を忘れているわけでもないのに、
ワンテンポ挟まないと不安になるのだと思う。
彼女からしたら私はまるで失念を繰り返す老紳士である。
以前見た映画にこういう話があった。
これがまた美女なのである(映画だからね)。
しかし女は病気が原因で死んでしまう。
荒れに荒れる略奪を繰り返すなか、アッティラはヌカラにそっくりな女を見つけこれも妾とするが、
実は女は東ローマ帝国が送り込んだ暗殺者だったのである。
さながらくノ一だが、ところがどっこい平原の悪者アッティラに魅せられ、
このイルディゴという娘は常にアッティラのそばにいながら彼の暗殺を躊躇する。
ある夜、イルディゴは酒に酔ったアッティラの杯に毒を盛り殺そうとする。
しかし、これも思いとどまる。
すでに情が移っていたのである。
ぽろっとイルディゴのことを「ヌカラ」と呼んでしまう。
それを聞いたイルディゴは目をつぶり、そっと毒を盛り、
アッティラは東西に分断した栄光のローマを目前にしてその生涯を終える。
その死はあまりに性急で、実際のところどうして死んだのかは不明である。
女の名前を間違えたから毒を盛られて死ぬというのはなかなか乙なストーリーである。
もし後世に正史として残るのであれば、こういう死に方もまんざらではないなと考えたりする。
李白が湖面の月を掬おうとして溺死したと聞けば、
われわれは李白が詩人であったことを疑わないだろうし、
アッティラは女の名前を間違えたから、惚れる寸前に女は思いとどまり暗殺を実行したと言われれば、
彼が蛮族の王であった理由もなんとなく首肯するだろうとおもう。
話がそれてしまったが要は、女の名前を間違えたら恐いぞ、というただ一言である。
男は名前を間違えられたら先夫を恨み、現妻に泣き、いよいよ精進するだけの話だが、
女の名前を間違えるとようよう太平では済まされない。
みなさん気をつけましょう。