銭湯

近所の銭湯に行ったときの話。

番台から男女の脱衣所両方が見える銭湯ってありますよね。

好々爺とかおばあちゃんが座って勘定をやるイメージがある。

その銭湯では若い旦那さんがお勘定やるから、

いつも男湯の脱衣所から番台の脇に立ってお金のやりとりしてる。

女湯を見ないようにしてる旦那さんなりの配慮なんだと思う。

きのうは体がガタピシいってたからサウナ入りに行ったんだけど、

がらがらっと戸を開けて番台に「こんばんは」って言ったら、

女の若い声で「いらっしゃいませ」とか言われてぱっと見たら(おそらく)奥様が番台に座ってた。

マジかよ。

夜九時という早い時間帯は今まで言ったことのない暗黒の領域。

夫婦のローテーションで番台回してるとはおもわなんだ。

女の人だから番台に座って、男女両方を俯瞰する位置にいて、問題はないと思う

問題ないが、多分30そこそこの若奥様が見てる前で脱衣するのだ。

だが温水プールじゃあるまいし、パンツを履いたまま風呂に入るわけにもいかない。

お前はここで全裸にならなければならない、天啓に導かれた気がした。

おもむろに番台に背を向け、この間100円で買った不思議な裁断のシャツを脱ぎ、

洗い物をためたせいで最後に仕方なく履いた白の靴下をぬぐ。

すこし息が荒くなったなかで冷静に考える。

次はジーンズだ。

そのときグンゼBody Wildのポップなボクサーブリーフを履いていたことを思い出した。

トロピカルイエローのブリーフにはパンダと原始人が描かれていた。

ええい!ままよ。

くっ、脱げない。

一日の労働を経て突っ張った下半身にからまるスキニージーンズ。

片足でジャンプするように少しずつ脱衣していくが、

その尻では真っ黄色のパンダと原始人が上下する。

くわえて、若奥様が俯瞰しているというプレッシャーもあったのだろう。

そのときJr.が、

私のジュニアが振動に驚いて起きてしまったようだ。

オレとともに生まれ、ともに育ち、同時に男になり、

いつもおれより先に寝て、俺より早く起きる、寿二亜が。

授業中に勃起する中学生の困惑がふってわいた。

授業終了時に起立する日本の慣習をあの時は呪っていたものだ。

俺は中腰になるより、さっそうと教科書を手にして堂々たる表情で前隠しにしていた。

しかし今のおれには教科書はない。ノートもプラスチック製の下敷きもない。

いや、学校帰りの中学生でも銭湯でそんなもの取り出さないだろう。

ふー!

心を落ち着かせるために深呼吸をする。

腹筋には力はいれないよう注意してだ。

むすこよ、今一度眠れ。

なんとか引っかかりを除去してジーンズを脱いだ。

そしてブリーフに手をかけるが、傍らできゃっきゃした声が聞こえる。

銭湯の旦那さんがとなりで5歳ほどの幼女をつれている。

まさか娘を男湯に入らせるとは。

ここで一気に平静にもどった。

ふふ、おれは年上趣味なんだよ。

ずるっと脱いだところで手ぬぐいを取り出す。

隠す。

がらがらとガラス戸を開け風呂場へ。

番台を振り向くと、結露したガラスの向こうに若奥様はいなかった。

そのとき完璧に萎えた気がした。