我が子のような弓

先日の練習で森茂夫六分五厘が踏まれた

矢取りから帰ってくると俺の弓をとある弓引きが見ていた

「あんたこりゃ下がたっとるね。どれ」

といってやおら矢拭き用の手ぬぐいで下を押さえて踏む

一回、二回、三回

堂射の弓、雁がね弓をモデルにしてるんだから下が立ってるが森のディフォルトなのである

しかも森の外竹ぎれの八割は無知な人間が下を踏むことで起きる



おいおい

いくら地方の田舎侍だといって

あんた人の弓勝手に取り上げていじるんか?

しかも俺の弓を土がついた矢拭きに敷いて踏み抜こうとは

外竹がきれちまう

今回は本気で頭に来た、

俺がこの弓を育てるのにどれほど腐心してることか

この、我が子のような弓を。

即座に弓巻きをまいて退散

じゃないと俺がキレる



他人の弓のことを知らないといってもそれはその人の事情だから、

ノータッチであるべき

ふつう高段者になればなるほど他人からの指導は入らなくなる

「先生」とよばれる人は自分でアンテナを張らないと、

カジュアルな文脈での情報の集まりが悪くなる

威厳が反作用するからだ

それはいい、

その人の選んだ道だから

問題は、知らないままに人の弓にちょっかいを出してくることだ

もっと弓のこと勉強してくれ

いや勉強しなくてもいいから、静かに俺の弓を引かせてくれ