しゃっくり

からしゃっくりが止まらず、

三時間ほどしてようやくおさまる。

これほど長い時間つづくしゃっくりは初めてだった。

しゃっくりがつむぎだす、突発性こぎざみ上下運動に体は疲れ切り、

まだ昼間だというのに、真夜中一時の疲労感である。

上下運動の中、しゃっくりが止まらないと死ぬ、俗信を思い出した。

あのように長時間続くとあながち嘘でもない気がする。

しゃっくりが止まらないとだんだんと意識が薄れていき、

あれがもう三十時間も続けば痙攣したまま死に至ることもあるというから恐ろしい。

もしもあのまま死んでいたら…





都会の団地の一室でしゃっくり死体として発見された。

その枕頭にあるのは、酢、牛乳、電動肩たたき、お茶碗、軟式ボール、コンドーム。

おそらくはしゃっくりを止めるのに効果があると踏んで用意した品物なのだが、

想像するに、死にゆく者が後半の品々もまた効果ありと錯覚したのだろう。

まずお茶碗。

これを口元にもっていき口腔内を酸欠状態にした後、

なにかしらしゃっくりに変化が訪れると思ったのだろうか。

つぎは軟式ボール。

死体の右手にはボールが握られていた、その握りはストレートに、そっくり、だが、

微妙に異なっている。

まてよ……、そっくり、しゃっくり。

そうか、これはこの世のきわにせめては冗談の一服でも、

という今生のしゃれであるか。

ナザレのイエスも真っ青の清涼感だ。

そして、コンドームには若干の使用の跡がみられる。

これは、避妊効果としゃっくり抑制効果を混同むしたものに相違ない。




電動肩たたきには何らの効果もないとお思いだろうか。

否、しゃっくりは横隔膜の痙攣より生じるもので、

電気按摩の振動をその痙攣の周波数と同じゅうすれば、

その共鳴効果により痙攣はいつのまにやら中和されるというからくりである。

音程の同じデュオが、初めて会ったその日から~♪、と歌っていれば、

いつの間にか二人は一人のディーヴァとなり、そして永遠に分離できないのと、まあ原理は一緒だ。








あのとき死んでいたら、そんなことになっていたのだ。

ちなみに、じゃがいもに味噌をつけて食べると死ぬ、という俗信もある。

これは本当である。

だが試してみるのはお勧めしない、もしも味噌じゃがを食べたら絶対に死ぬからである。

遅かれ早かれ。