無邪気な哲学者

アキレスと亀を上手に説明するにはどうしたらよいだろう。

もしも中学生かその年回りの子どもに説明するとすれば、

これは大変に骨の折れる話である。

形而上学アリストテレス、論理学、命題、そういったこととは全く接触をもたない、

いわば哲学的に無垢(無知ではない)な知性にどう接すればよいのか。

一見簡単なものが難しいとはまさにこのことである。




アキレスと亀の説明に難解な語彙は必要ではなく、

登場人物などいくらでも容易に置きかえることはできるはずだ。

しかしそれでも、いってみれば逆説的に、この説明は難解なのである。

なぜなら無邪気な子どもなら、誰でもこうやって反論するはずだからだ、

「人間が亀よりも遅いはずはない」と。




啓蒙をしようとする者は、

その現実的な一突きに対して、論理学の刃でリポストするべきなのだろうか。

かれらの奔放な想像力と議論の力は、

アキレスが亀を追い抜くには十分すぎるほどなのである。