突然の来邦者

スウェーデンに留学していたとき同じ寮に住んでいたフランス人が訪日する由。

それを昨晩聞いたのだが、彼曰く、今週末に着く、とのこと。

つまりそれは今日のことで、すなわち、きわめて唐突である。

気まぐれなのは彼らフランス人の性癖か、それとも彼独自の気質なのか。

いずれにせよ、もう二度と奴には会えないであろうと内心諦念していただけに、

うれしい限りである。




そんな彼の来日を尻目にして、今朝は古本市に赴く。

好古家たちの放出品が会場にところ狭しと立ち並び、どれにも格安の値段がふされている。

すばらしい。

最近しきりに関心を抱く戦史研究書を何冊か手に取る。

児島襄の『朝鮮戦争』と『満州帝国』を購入するが、

六冊で一〇〇〇円とはなかなか良心的ではないか。

児島襄の畢生の大著である『日露戦争』は五巻二〇〇〇円也。

うらめしい気持ちにとらわれ乍らもこれには手が不レ出。

次の機会を待つ。




特に気を引かれたのは岩波の『永井荷風全集』であるが、これが一五〇〇円といやに安い。

どうやら四巻分の歯抜けがあるようだ。

下手に安く買って抜けた部分を集めようとすると、それには意外とお金がかかるのである。

たしかに二五冊でその値段は格安であるが、これには気をつけなければならない。

これも次の機会を待つ。




次に手に取ったのは、歴史学研究会編の『太平洋戦争史』だ。

それほど掘り込んでいない概括的な作品に見えて、

文中には案外なじみない言葉が散在している。

但し、編者にもまた知らない名前ばかり並ぶが、これは私の浅学のせいかもしれぬ。

表面が薄汚れているからこの値段なのか、六冊五〇〇円で買い上げる也。




来月も好古会は開催されるそうだ。

適当なところで切り上げて、次のためにまた新たな好奇心を蓄積しておこう。

I shall return.