カレー狂想曲

深夜になると料理を作りたくなる。

とくに、カレーが。

おなかがすいているから、ではない。

ただ、むしょうに、夜半の静寂におもむろに心をうごかされるのである。

そして昨夜もやってしまった。





時刻は午前2時。

子(ね)から丑(うし)へと、刻がうつりしとき。

近所のスーパーで買ってきた、5個150円の中玉のたまねぎを、台所にてしずかに見つめる。

かねてから、カレーの材料として購入しておいたものだ。

「びりっ」、わたしはおもむろに手をのばし、そのビニールの封を解く。

封印を解かれたたまねぎは、先ほどの窮屈な空間から開放された喜びを表現するように、

手をつたい、まな板の上に転がりこんだ。

「ぼくを切って」、つやのあるたまねぎは、そう言ったかのようにみえた。

それに応じるように、わたしは丁寧に皮をむきはじめる。

少しの取り残しもないよう慎重に。

つんつるてんになったたまねぎは、再度言う。

「早く、はやく切って。」

そうか、そんなにもカレーにされるのが待ち遠しいのか。

なんとけなげな奴。

わが心には惜別の念すら生まれ出る。

しかし、さようなら。

「すとんっ!」

思いを断ち切るように、一息にふかぶかと、わたしはその体へ包丁をしずめる。

瞬間、たまねぎは物言わぬ塊(かたまり)となった。

わたしの目にはふしぎと涙があふれた。






















-次回 ”ブタ肉、男爵イモ、人参。恐怖の三連星現る” へ続く(うそ)-