向こう見ず

電車に乗っているときのこと。

私が座席で本を読んでいると、着物姿の二人のご婦人が乗車してくる。

そして、年長のご婦人がおもむろに私のとなりに座る。

しかし、二人は楽しそうに話をしているが、

まわりを見渡すともう席は空いておらず、もう一人のご婦人は立っている。

その妙齢の婦人はとてもつややか。

彼女の顔を見上げた私は思わず息を呑む。

ごくり。




そして次の瞬間。

「どうぞ」と私はつややかなご婦人に席をゆずる。

最初は遠慮していた彼女であったが、私が「次の駅で降りますから」と言うと、

「そうですか、ありがとうございます」と席に腰掛ける。

背筋がぴしっと伸び、笑うときも手を口に軽く添える所作をおこなう。

うーん、美しい。

わたしは一瞬「貴方のために、座席を暖めておきました」と言おうとしたが、

変な人だと思われるのでやめておいた。







ところが、

いいことをした、と思ってふと横を見ると、70歳くらいのおじいちゃんが立っている。

おじいちゃんの前で若い女性に席をゆずったせいか、心なしかむっとしている。

しかも立っているのがつらそうだ。

しまった。

周りが見えていなかった自分にそこではじめて気づく。

私は気まずそうに次の駅で電車を降りた。

ごめんよ、おじいちゃん。



















でも、”attractive(引き付ける、魅力のある)”って、そういうことなのさ。

という言い訳。