タマのゆううつ

私の家では猫を飼っている。

厳密に言うと、我が家は二世帯住宅になっていて、

もう一つの所帯に住んでいる叔父が猫を飼っている。

その猫の名は、タマ。

とても毛並みのいい三毛猫で、おとなしく頭のいい猫だ。

私が小学生のときから家に住みついているから、もう15才くらいのおばあちゃんである。
(不思議な言い回しだけど間違ってないね)


しかし、なぜか私にはなつかない。

だからあまり好きになれない。

いつしか、えさをあげようとして逃げられたこともある。

それこそ、目が合ったら一目散に走り去るのだ。

女性にもそんな仕打ちをされたことはないのに。

よくよく思い出してみると、たったの一度しかない。

そして単にそっぽを向かれたからといって、そこでタマを嫌いになっていたら食わず嫌いだが、

ちゃんと愛情を示したのに逃げたのだから、私も嫌いになってもいいはずだ。

子供だなぁ、私も。






しかし、そんなタマがいま重大な危機に直面している。

長年、タマが縄張りとしてきた我が家の縁側やベランダに、新参者の猫が侵入してきているのだ。

しかもその猫は一匹ではなく、私が数えてみたところ、五匹はいる。

向かいに家で飼われている猫が、最近になって勢力圏を伸ばしてきたのだ。

ねずみも人も寝静まる午前三時ごろになって、毎晩、大戦争が繰り広げられている。

猫だから同じ戦線を張って共闘するということはないが、

断末魔の叫びにも似た奇声を張り上げ、猫たちがもみくちゃになって戦っている。

いつも夜更かししている私は家の窓をそっと数センチ開けて、

その血みどろの戦争を目撃しているのだ。

そして老猫のタマは、若手の前には太刀打ちできないでいる。

最近はタマも半ばあきらめ腰で、夜中に道をとぼとぼと寂しく歩くタマの哀愁漂う後姿を何度見たことか。






私とタマは、いがみ合っている。

もちろん、そんな好き嫌いのことをタマは意識してないと思うけど。

だが同じ屋根の下で育った猫だけに、これは放ってはおけない。

そしてどうしようかと考えてみたが、私がその新参者の猫と戦っても動物虐待になってしまう。

しかもそれがばれてお向かいさんに怒られたら、近所関係を悪化させちゃう。

結局、猫の戦争は猫によってしか成らず。

しかしそれではタマがかわいそうだ。

今はよいアイディアはないか考え中。