逆ナン台風

二つ前の日記で、繁華街で痴女と遭遇戦を繰り広げた話を書いたと思う。

ちゅっちゅの嵐に加えて人の下腹部をさんざミーモーした挙げ句お代を払わず去っていった女の話だ。

後日おなじ界隈のバーに寄って最近増えたその引き出しを披露しているとバーテンさんが、

「お客さん、それって40歳くらいの髪束ねた人ですか?」

そうですよ。

「もしかしたら最近よくこの辺りに出没する人かもしれないですね」

ふむふむ。

「うちのお客さんでも、多分おなじ人に絡まれて飲みに行った方がいるんです」

ふんふん。

「その女性一人でうちに飲みに来てくれたんですけど、カウンターにいた男の人と知り合ってまた外に出て行ったんです」

ふーふー。

「次の日その男の人がうちに来て、何処かで免許証とクレジットカードと眼鏡をなくしたって言ってました」

うぱっ。

今年一番ぞっとした。

完璧に犯罪の香りがする。

財布からカード二枚だけ消える不思議。

しかもそのおばちゃん何回かそのバーに来ているらしく、

自分で男を引っかけておいては自分は一銭も払わないそうな。

そしてオレもまたその餌食になったと。




素性に関する情報は錯綜しているが、おばちゃんは比較的近隣の人らしい。

真夜中にバーの入り口で酔いつぶれて寝ていたことがあったそうで、

マスターが帰る金はあるのか聞くとブラジャーから1000円札をぽろりと出したそうな。

おそらくそれがおばちゃんの全財産で、ワンメーターで帰れる距離には住んでいるようだ。

そのせいもあって、夜な夜なこの界隈に出没しているカラクリなのだけれど。

また、完全にアル中のおばちゃんだが、あるとき「私フランスに留学していたことがあるの」

と何とも極めつけなことをバーテンさんに言ったそうな。

しかし大学教授がバーに来たとき、おばちゃんは流暢なフランス語で教授と会話していたらしい。

一応の使い手ではあるにしても「どこで踏み間違えるか人生分からない」とは、

バーテンのチャンネーの金言である。

チャンネーは賢い人であったから、そこにひとつ味を加えて、

界隈に一騒動を巻きおしているおばちゃんを「逆ナン台風」と名付けた。

まだまだ波乱をおこしそうという意味で。