ロマ人

近所のスーパーで買い物をしていた時、家族連れの外国人とすれちがう。

彼らの浅黒い肌、カールのかかった癖っ毛、中東の手前ら辺の人たちか。

このあたりの外国人居住者分布から考えればインド人とみるのが最も相当だが、

しかしそれに加えて、太い眉、濃い口髭(女の子にもうっすら生えている)、くぼんで横長な眼。

インド人ともどこか違う容貌だ。

そうだ、これは以前本で読んだロマ人の特徴に寸分たがわずあてはまるではないか。

ロマ人は現代においても非定住型の生活をする民族である。

まさか日本で、しかも近所のスーパーで遇うとは思いもよらなんだ。




同時に、瞬時にロマ人と見極めた陶酔感とそれが謬見である可能性が心に萌え初める。

おそらくあの地下食品売り場で、

彼らのことをロマ人と類推したのは吾人だけに相違ない。




もしかしたら間違っているかもしれない当て推量に、

今までの勉強は力のない机上は学問ではなかったことが証明されたようで悦になる一方で、

あるいはそれが誤謬かもしれぬ恐怖が欝勃と頭をもたげた。

この二律背反を征服するために、なぜあのとき彼らに誰何しなかったのか。




それは、近所のスーパーでロマ人が買い物をしているはずがないという専断と、

自分の推量が謬見であるかもしれないという恐怖と、

虚実に寄りかかってでも酔っていたいと願う自尊心が、

そうさせたのかもしれない。

結局は、なんとも甲斐性のない話である。