入管法改正

ニッポンの政治がメール問題で未だ揺さぶられていた今週の水曜日、

出入国管理及び難民認定法改正案」(以下、入管法)が衆議院で可決された。

この法案で改正される内容をNGOや一部の国会議員が辛らつに批判している。

すなわち、

年間700万人といわれる日本に入国する外国人から指紋などの生体情報を取得するというものだ。

このとき採取された情報は日本国内の犯罪捜査にも転用される可能性があることが明らかになっており、

人権・プライバシー権の侵害にあたるのではないかという指摘がある。

アメリカでも同様の制度は実施されているが、

日本は特別永住者(台湾人、在日コリアン等)と16歳未満の入国者を除くすべての外国人にたいして、

指紋等のデータ提出を義務付けようとしている。

これは永住権を持つ人でもデータ提出の範疇に入るということである。

蓄積されたデータの保存期間は70年とも80年であるともいわれている。

この新入管法が施行されデータ蓄積が行われるようになると次のような可能性がある。

現在アメリカで、将来的にはEUでも実施される予定の指紋採取がデータベースを構築し、

互いの情報が国境を越えてリンクしあうのではないかというものである。

つまり対テロ対策のグローバリゼーション(地球規模化)である。

同時に日本が指紋採取を行うことにより日本人が他国に入国する際に、

対抗措置として同様に指紋提出を義務付けられるおそれがある。

一番の問題は指紋や顔写真などの生体情報が、

どこまで本人を確認するのに役に立つのかというところにある。

年を取ってしまえば顔は変わり、

手を使うような仕事に従事している人の指紋は一定しないという説もある。

取得された情報を照合するための手段はあいまいなのである。

今回の新制度に反対しているのはNGOなどの市民団体と日本弁護士連合会、

そして民主党社民党共産党などの野党勢力である。





これを政府の立場から見ればどのように解釈されるであろうか。

今回の入管法の改正案そもそもは9.11のテロを受け、

水際のテロ対策を強化するために策定されたものである。

たとえば他国から提供されたテロリストの生体情報を自国のデータベースと照会することにより、

国内にその人物が入国したかどうか追跡することが可能となる。

そして指紋を採取することにより国内での外国人による犯罪への抑止力効果も期待される。

また一度採取された情報が蓄積されることにより、

その後出国した人が再度日本に入国する場合の手続きや事務処理を簡素化できるなどの利点もある。

この指紋情報を日本人もパスポートに登録しておけば、

将来的にはETCのような自動化ゲートを通り抜けるだけで帰国の手続きが済むなどが考えられる。





私は最近NGOでインターンとして働かせていただいているのだが、

どうも市民団体というのは政府の出す法案にたいして、

政党議員の動きと連動し否定的な立場をとるのが通例であるようだ。

政府のすることにたいして声を上げることに意義があるというのが彼ら存在理由である。

これを「圧力団体」という言い方でもって代えることもできるだろう。

確かに入管法改正案が間違えなく成立するという状況にあって、

そこに反論を浴びせることは無意味ではない。

しかし国内の安全保障を確立する上では、これらの対策は不必要であろうか。

実際のところ日本でテロが発生する確率はどのくらいであろうか。

ここでのテロとは「アメリカを主な標的としたイスラム圏のテロ組織(アルカイーダ等)のテロ」

という定義で間違えないであろう。

アルカイーダによって名指しをされているということは、

日本も標的にリストに載っているということで間違えはない。

では「実際の確立は?」というとNGOも政府も誰も分からないのである。

そしてそこで「事が起きてからでは遅い」という言い分を使われてしまえば、

少なくとも私はテロに巻き込まれたくはないので改正に黙りこんでしまう。




確かに今回の入管法改正では、一般人からも指紋採取を行うという異例さも含むものである。

人々の根底にも、指紋は犯罪を起こした物から採取されるという意識はあるはずだ。

それを日本に観光にやって来た人からも採取してよいものなのか。

そこには政府が「Welcome Japan!」と海外で広報する一方での、「本当のところ」が見え隠れしている。

なぜ外国人に対してそんなに厳しい態度で臨むのか。

それは外国人差別ではないのか、外国人嫌い(xenophobia)ではないのか。

日本人は「個人情報、個人情報」と連呼しているではないか。

それは他人に自分の情報が所持されることの危うさについて充分な認識を持っているからではないのか。

それでいて外国人にそういう扱いをするのは許されるのか。





偽メール問題で人々の関心がそちらに向いている一方で、

国会では次々と法案が提出され、制度が変わり、施行されていく。

そんな中、国内の安全に不可欠で外国人に重大な疑念を起こさせる、

表裏一体の法案が成立されようとしている。